第18章:手話言語におけるCL構文(II)

本章では、他の二種類のCL手型(操作CLと実体CL)を取り上げる。

手話言語において、操作CLは、指示対象を操作したり、つかんだりしている手やその他の物体の形状を表している(Sandler & Lillo-Martin 2006)。操作CLは、一般に、手の動作を表現する述語に用いられることが多い。下記の例1から例5では、述語に操作CLが組み入れられ、物体が人の手でどのようにつかまれているかを示している。

(1)「(帽子を)被る」

(2) 「(ドアノブを回して)ドアを開ける」

(3) 「(タオルを)絞る」

(4) 「(大きく重い箱を)運ぶ」

(5) 「(黒板に)書く」

操作CLは、運動動詞の語幹と組み合わせて用いることが多い。操作CLは、動作をそのまま表したものであるため、手話言語間で非常に似通っている。

下記の表1は、日本手話における操作CLの例とそのCLが表しうるものの例である。

表1.日本手話における操作CLの手型例

手型 その操作CLによって表すことができるもの
三次元の円筒形の、または、細い物体。ドアノブ、投げやり、アイスクリームのコーンなど。
細長い物体。釣りざお、スプーン、金づちなど。

細く短い物体。鍵、爪ブラシ、歯ブラシなど。

小さな物体。結婚指輪など。
小さな物体。爪楊枝、イヤリング、ティーバッグなど。
小さく平らな物体。携帯電話、ブラシ、ビデオカメラなど。

第三の種類のCLは実体CLである。実体CLは、一見、SASSと同じように見えるが、より抽象的である。視覚的に認識される物理的な性質そのものではなく、より一般的な意味としてのカテゴリーを表している(Sandler & Lillo-Martin 2006)。

(6) 「背の高い男性が背の低い女性の横に立っている」

例6は、背の高い男性が背の低い女性の横に立っていることを表している。身長には明らかな違いがあるものの、男性も女性も述語(CL[=生物が~に立っている])の中で同じCL手型(1手型)で表現されている。これは、実体CLが、個人の外見ではなく、一般的な意味としてのカテゴリーを表すものだからである。従って、1手型は、大人も子供も含め身長や体重が様々な人にも使用できる。

(7) 「大きなバスの後に小さな自動車が(道路を)走っている」

例7では、乗り物の実体CLが、バスと自動車をそれぞれ表すために使用されている。また、バスは自動車より大きいが、ふたつのCL構文に同じCLが用いられている。

下記の表2は、日本手話における実体CLの例とそのCLが表しうるものの例である。

表2. 日本手話における実体CLの手型例

手型 その実体CLによって表すことができるもの
    小さく有生の実体。人間以外の細長い生物であることが多い。ミミズ、微生物など。
主に人間。
乗り物。バス、自動車、トラックなど。
二輪車。自転車、オートバイなど。
人間の足を持つ実体。水泳、歩行、跳躍などの動作を示す。

本章と前章では、日本手話を例にして、手話言語における三種類のCL手型について考察した。CLは、結合する指示対象の顕著な特徴を表しているが、それ自体に特定の意味はない。話者が文脈とは無関係にCL[=生物が~に立っている]という手話単語を示しても、受け手は、そのCLの指示対象は何なのか、正確に特定することはできないだろう。そのため、CLの前に先行詞として名詞を示すことが文法的に必要になる。例7の場合、最初に/バス、大きい/ を提示しており、それが後続のCL述語[=乗り物がある]の先行名詞となっている。

紹介した全てのCLの例に示される通り、CL構文は、実体や事象の視覚的図像性を利用している。CL構文では、手型、動き、向き、位置の全てが意味を持つ。そのため、CL[=ひとつの乗り物の後に別の乗り物が続く]などのCL構文は、実際のところ、複数の形態素で構成されている。CL構文は、手話空間において、指示対象間の空間的関係性を表現する上で非常に効果的である。

参考文献:

  • Sandler, Wendy; Lillo-Martin, Diane. 2006. Sign Language and Linguistic Universals. Cambridge University Press.

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